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No.443 谷川俊太郎さん

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 先日亡くなった谷川俊太郎さんに、こんな詩があります。

「病院」
青空と太陽はクレゾールに溶解され
暗い廊下には科学よりむしろ蝕まれた感情が堆積している

原色のスーツはレントゲンの前に無力である
白衣にさえも慰めはない

患者たちが
色付きガラスの試験管の底に
自分のこころをおずおずと閉じこめると

白い医者たちは
たしかな冷い機械になって
たしかな冷い機械をいじる

いろいろの残響の中に僕は人の声を聞かぬ
ここではすべてが唯物論だ

病院は秘密のない近代都市に似ている

 ずいぶん前に書かれた詩ですが、今も病院は何もかわっていない(いっそう深刻になっている?)のではないでしょうか。

 谷川さんが、獨協医科大学創立40周年(2013年)に制定された「獨協医科大学校歌」の作詞をしておられることを最近知りました。

病む人のからだに触れて
病む人に耳をかたむけ
病む人の心を探り
日々学ぶ生命の不思議
新しい明日すこやかに
ひとり立ち力あわせる獨協医大

手を当てるからだをさする
優しさはみえない処方
頑な痛み和らげ
夜ごとの不安を癒す
からだと心たおやかに
ひとり立ち力あわせる獨協医大

先人の知恵を頼りに
先端の技術を修め
心身をまるごとつかみ
畏れつつ道と戦う
地球の未来しなやかに
ひとり立ち力あわせる獨協医大

 やさしく簡潔な言葉だけれど、厳しく医療者が問われています。この詞だけでケアの要点は語りつくせる気がします。
 「ひとり立ち力あわせる」という言葉には、チーム医療は、まず「ひとりで立つ」ことからしか始まらないということを思い知らされます。
 医学教育で、このことが伝えられているでしょうか。模擬患者演習を、このことを伝えることに役立ててくれているでしょうか。
 この校歌を見て、私のこの大学への信頼は大きく増しました。(2025.08)


日下 隼人

コミュニケーションのススメ 日下 隼人 コラム

● 本コラムの内容は、著者 日下 隼人の個人的な意見であり、マイインフォームド・コンセントの法人としての考え、および活動に参加しておられる模擬患者さんたちのお考えとは関係ありません。

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