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No.393 話を聞くことに集中しなくていいの?

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 今はインターネット上に医者の「評価(コメント)」が溢れています。もともと、何か不満のある人が書き込むことが多いのでしょうから否定的な評価が多くなりがちですが、大病院に高い「評価」をつける人は少数派です。それでも、読んでいて「ここ、大丈夫かな」と思わされる病院も少なくありません。その地域に一つしかない基幹病院の場合なおさらですが、地域で病院を良くしていこうというような雰囲気で書かれたコメントは殆ど目にしません。
 開業医のことになると、「好き・嫌い」がもっとはっきりしています。自分に対しての否定的なコメントを読めば絶対に落ち込むであろう私としては、開業しなくて良かったと思うばかりです。
 いくつかの小児科クリニックの評価を見てみると、「患者の話を聴いてくれない」「説明が足らない」「こちらと目を合わせない」「一方的に話す」「冷たい」「質問しにくい」「質問したのに、取り合ってくれなかった」などというコメントが少なくありませんでした。それに対して、「診察は間違いがあってはいけないと集中されているので全く愛想がなく、怖いと感じる方も多いですが、信念と志を持っていて素晴らしい先生です。必要最小限しかお話してくれないのでそっけないと感じますが、勇気を持って(笑)質問すれば答えてくれます」と好意的なコメントをしている人もいました。
 でも「診察の間違いがないように」するためには、「愛想がなく怖いと感じ」られてしまい、「必要最小限しか話さない」というのはやはりまずいのではないでしょうか。質問するために「勇気」が必要というのも、どうでしょうか。第一線の診療場面では、丁寧なインタビューだけでも80%以上診断がつく」と言われます。「診察の間違いがないように」するためには、何よりも患者さん(家族)に自由にどんなことでも話してもらうことが必要です。そのような雰囲気作りが必要なのです。患者さんの話を聞くことに集中しなければ「診察の間違い」を避けることはできません 1)。どんな疑問でも、気兼ねなく尋ねてもらえなければ、前には進めません。そのためには、十分な情報提供が欠かせません。そこで生まれる信頼関係が、これからの付き合いを支えます。「教え諭す」「治してあげる」「任せて」という「高い位置」に居る医者に頼ることで安心できる人もいますが、それでは「足らなくなる」場合もきっとあるのです。
 一方で「話が長いので、時間的余裕が無い時にはかからないほうがよいかも」なんて書かれている医者もいました。「ほどほど」というのは難しいものだ(アリストテレスの「中庸」はなんと難しいことか)と思いましたが、自分が話す時間くらい長く患者さんの話を聞いているのかなとも思いました。
 最近我が家の近くで開業した若い医師へのコメントでは、「一方的な説明じゃなく、なにか気になることがあるか聞いてくれてとても親身だなぁと思いました」「症状の原因をとても丁寧に説明してくださいました」「説明もしっかりして下さるし、質問しても丁寧に答えてくださいます」「説明は分かりやすく、相談や質問もしやすいです」と絶賛されていました。「質問しやすく」「質問に丁寧に答える」ことが大事だということが、あらためてわかります。もちろん、その医師の性格に負うところがほとんどでしょうが、いくらかはこの間の医学教育の「成果」でもあると思いたい(若いのに、医学教育の成果が全く感じられない医師も少なくないだけに)。こうしたコメントを医学教育に活かすことはできないでしょうか。
 総じて、批判的コメントを書かれている医師は年配の人が多い印象です。若いと好意的なバイアスが働くのかもしれませんが。あるクリニックへのコメントで「このくらいの年齢の男性って、こういう人少なくないよな〜と気づいてからは、苦手に思う必要はない、この人はこういう人!と思えるようになりましたw 」と書いている人がいました。医者は、いつも気づかないうちに患者さんに助けられているのです。当の医師と同世代の私としてはwと笑ってすませるわけにもいきませんが。(2022.06)

1) 患者さんの話を丁寧に聴くことは
・患者さんのプライド(人間としての誇り)を守ります。
・私たちが、その患者さんの味方であることが伝わります。
・患者さんの心の揺れが和らぎます。
・その場の雰囲気が和らぎます。
・私たちには、その患者さんが大切にしていることがわかり、尊重することが出来るようになります。
・医療者の提供する情報がうまく伝わります。


日下 隼人

コミュニケーションのススメ 日下 隼人 コラム

● 本コラムの内容は、著者 日下 隼人の個人的な意見であり、マイインフォームド・コンセントの法人としての考え、および活動に参加しておられる模擬患者さんたちのお考えとは関係ありません。

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